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地域の仲間とつくる、有馬の未来

篠塚:「宿」はエリアであるという考えのもとに、有馬自体を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいらっしゃるのですね。有馬という宿場街の視点で、取り組みへの手応えは感じていらっしゃいますか?

金井:有馬が「動いた」のは、21年前の阪神淡路大震災以後だと思うのですよ。それまでは、町づくりのプランは作っても、動かなかったのです。阪神淡路大震災が起こってから街は変わりましたし、温泉地人気ランキングでも有馬の地位が上がってきました。ところが、客足が順調に伸び始めると段々と横着になってしまうのです。そうした傾向にならないようにしなければいけないのですが、地域づくりは難しいですね。

篠塚:それが、今の有馬の課題ということですね。

陶泉 御所坊

金井:足元ではいろいろな危機が忍び寄っているのですよ。例えば、今は外国のお客様が来てくれていますが、有馬は今後、通過するだけの場所になりかねないのです。関西国際空港に着いたらまず有馬温泉、そして最後にも有馬温泉というコースを確立するには、今の旅館のシステムを変えなければいけないと思っています。一般的な旅館の場合、宿への到着が夕食に間に合わなければ料理を提供できないシステムです。そうなると、大阪市内に宿泊するか、いっそ遠くまで行ってしまおうということになってしまいます。また、外国の方が日本に来て何を食べたいかを考え、献立から逆算して伝統野菜を育てるなどの取り組みをする必要があります。しかし、単に豪華なごちそうを食べるだけの観光は、これからは流行りません。豪華なビーフステーキや刺し身の盛り合わせより、この南瓜がこんなに美味しかったのかという方が驚きだと思うのです。

篠塚:まだまだ豪華なもの、ラグジュアリーなものが一般的な価値観である中で、食、農業を突き詰めていらっしゃるのですね。世界の人もまた有馬に行きたいと思ってくれる理由は、そこにあるのではないかという印象です。金井さんは「味の宿」や「宿文化研究会」など、いろいろなコミュニティをリードされていらっしゃるという印象なのですが、そういった新しい取り組みは全国のお宿さんも注目されていると思います。そうしたところは意識されているのでしょうか?

金井:私は、どこかで誰かがやっていて、流行っているものに追随するという発想はないのですね。自分でひらめいて、「これだ」と思うことをやっているだけです。絶滅に瀕している野菜を守る「アルゴテイスト」という考え方をもとに、有馬山椒をそこに登録しようと考えています。田舎の温泉旅館で希少な食材を味わえるとなれば、成熟されたお客様にも感動していただける。御所坊でしか実現できないような世界を作っていくことを意識しています。また、周囲を参考にして露骨に真似をするのではなく、その人がその人なりのエッセンスを加えて「これはどうだ」とやり返してくることができる仲間が、宿文化研究会の人間だと思うのですよ。一方通行ではないのですね。

篠塚:素晴らしい仲間と切磋琢磨して進んでいかれる環境があるのですね。そうした刺激を受けられる場所があるからこそ、未来の展望もより広がっていくのだと感じました。本日はありがとうございました。

陶泉 御所坊

写真:ayami / 文:宮本 とも子

陶泉 御所坊 第15代目当主 金井 啓修

陶泉 御所坊 第15代目当主

金井 啓修

1955年、有馬町生まれ。1981年に御所坊を継ぎ、15代目 金井四郎兵衛を襲名。以来、有馬の街全体を巻き込んだ地域活性化に積極的に取り組んでいる。2010年、国土交通省「観光カリスマ」に指定2016年に有馬温泉観光協会長に就任。