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変化への反発、そして「泊まりたい宿」へ

塩川:先ほど、ご家族の反対を押し切って上京されたというお話しがありましたが、ご実家である旅館に戻られてからの日々は順調ではない部分も多かったのではないでしょうか。

陶泉 御所坊

一條:実家に戻ってすぐに、いろいろな関係者の間で考え方の違いが明確になるということもありましたし、2006年には父が亡くなり、お客様の数も減り、「これから建て直していこう」というタイミングながら、トラブルはいくつもありました。長く勤めている従業員は、旦那と女将として戻ってきた私と妻の話をなかなか聞いてくれず、今までと同じやり方で勝手にものごとを進めてしまうのです。我々のことを認めたくなかったのだと思います。私たちが戻って来るまでは、従業員は「自分たちでものごとを進めていい」という状態だったのですが、我々はそこに逐一いろいろな注文をつけますから、新しいことをやる、現状を変えるということに大きな戸惑いがあったのですね。

塩川:いよいよこれから、というときに従業員の方々が「変化」に抵抗をはじめたのですね。

一條:これは大変でした。しかし、今まで同じことだけをやってきたために売上げが下がったのですから、何かを変えなくてはいけないことは明白です。そこで、妻は子どもをあやしながら館内のあちこちを歩きまわり、「私ならここをこうする」という構想をノート2冊にまとめていたのです。それをもとに、改革の第1弾として、もとはテレビが置いてあって洗濯物が干してあって…と、湯治のための木造本館でしかなかった場所を思い切って料亭に変えました。その頃、朝の情報番組で半年間の密着取材をしていただいたのですが、その辺りが良い転換点になりましたね。

塩川:一條さんと奥様、おふたりの行動の根底にあったのは、「何かを変えなくてはいけない」という危機感だったのですね。

一條:変える、という点においては「私たちが泊まりたい宿にする」ということを1番に心がけていました。当時は、トイレ付きのお部屋は26部屋中6部屋しかなく、8畳間といいながら畳のサイズがそれぞれ違う部屋もありました。そうした点を見直し、自分たちが「泊まりたくない宿」から、「泊まりたい宿」にすることが出発点でした。まずは料亭をつくり、和室の部屋にはトイレをつけるという工事をしたところ、徐々に評判がよくなっていったのです。その後、旅館全体をフルリノベーションしようという計画が持ち上がったのですが、その年の年末に鉄砲水に襲われまして、営業停止に追い込まれました。一旦は計画を白紙に戻し、再び設計図を書きなおして、2008年にフルリノベーションをしたのです。

祇園畑中 祇園畑中 祇園畑中

塩川:フルリノベーションのあとのお客様の反応はいかがでしたか?

一條:旅館が変わったことに対してはお客様の反応も多くありましたが、やはり1番大変だったのは従業員です。今まで勝手にやってきたものを、「いらっしゃいませ」という接客の始まりから、お部屋へのご案内の仕方、お茶の出し方に至るまですべてを徹底的に教育しなおしました。そんなとき、ある従業員が「女将、こんなことをしている旅館はどこにもないぞ」と言ったのですね。その言葉に女将は「だからやるんでしょう」とすぐに反応しましたね。「この辺りの旅館でやっていないからこそやるのです」と。今までやったことのないことを、私たちはやらなければいけないということです。

塩川:変化に対応できない従業員の方をリードするのは、相当なご苦労だったのではないですか?

一條:もちろん辞めていく人もおり、「従業員を総入れ替えした方が楽だ」と言われたこともあります。しかし、中には定年まで勤めあげてくれた人もいましたし、かつては湯主一條で働いているということに皆が誇りを持っていたのですね。「湯主一條に就職が決まると、礼儀作法から着物の着付けまでできるよう育ててくれる」というのが、地元の親たちの思いとしてあったのです。うちで働いているという誇りだけは全ての従業員が持っていましたから、その誇りを大切にして少しずつやり方を変えていこうと。女将が本当に根気強くやり方を変え、接客を変えていって今があります。

時音の宿 湯主一條 第20代目当主 一條 一平

時音の宿 湯主一條 第20代目当主

一條 一平

1969年、「一條達也」として生を受ける。宮城県出身。ホテルインターコンチネンタル東京ベイにてフロントとコンシェルジュを経験。日本コンシェルジュ協会ホテル会員。2003年に湯主一條の社長に就任。2014年3月、裁判所の許可を得て代々続く「一平」に襲名し20代目となる。

Ichijoh

Ichijoh

宮城県 > 白石・蔵王

森に囲まれた伝承600余年の老舗旅館。2008年にフルリノベーションされ、古き歴史や風情と新しく快適な空間を兼ね備える宿。