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天から降ってきた「襲名」と湯主一條の価値

塩川:2008年のフルリノベーションで、湯主一條は大きな変化を遂げられました。また、一條さんご自身も20代目「一條一平」を襲名するという大きな節目がありましたが、当時の心境をお聞かせいただけますか?

一條:襲名といえば歌舞伎役者や相撲取りが代表的ですが、その場合は襲名するのがあくまで雅号ですので戸籍を変える必要はないのです。しかし、私の場合は裁判所からの許可を頂き、役所で手続きをして戸籍上の名前そのものを変えてしまう方式でしたので、私もいつかは20代目を襲名しなければいけないなと思いながら先延ばしてしまっていいたのですね。それが、2003年に19代目であった父が、2012年には18代目の祖父が亡くなりまして、2013年の2月、朝起きたら「襲名」という言葉が天から降ってきたのです。朝ふと起きたら突如「襲名」と。なんの違和感もなく、「降ってくる」とはこういうことを言うのだと思いましたね。

塩川:2013年の2月に天啓を授かるようにして「襲名しなければ」と思われたのですね。

一條:2012年の12月に祖父が亡くなり、それはつまり一條家を支えてきた男性陣が全員いなくなったことを意味していました。そして、2013年2月から実際に動きはじめたのです。法的な改名に必要な書類をそろえようとしたところ、父が大切にしていた2つの風呂敷の中に、改名に必要な書類がそろっていたのですね。それで裁判所に面接をしに行きましたら、面接官の方がボロボロ涙を流しながら「離婚等の争いに関する案件が多い中で、襲名はいい話だ。がんばりなさい」と声をかけてくださったのです。その後、「生まれてきた日」であり「生まれ変わった日」にしたいという意味を込めて、自分の誕生日である2014年3月4日に改名し、正式に「一條一平」を襲名しました。

塩川:その襲名によって、新たな気づきなどはありましたか?

一條:一條一平に求める地域の人たちの思いですね。14代〜17代の4人の一條一平は、この村の村長でしたし、そういう政治的な力を持っていたというのもあるのでしょうね。安心感であったり、名前で背景が見えてくるという奥深さがあるのだと思います。そうした地域における重みを考えたときに、名前を継承することの大切さ、自分の歴史を淡々と続けて信用を積み重ねることが重要なのだと思い当たるのです。人格者として生きてきた父のおかげで、私の背景に信用がついてくるのだと感じますね。

塩川:そうした中で、今後の湯主一條の展望をお聞かせください。

陶泉 御所坊

一條:私は「鎌先温泉を昔に戻す」というテーマで動いています。古きものを磨き、そこに新しいものを取り入れながら、ここに人が集まるためのコミュニティをつくりたいのです。そのためにはカフェも必要です。外湯も必要です。今はまるきりそうした面影がありませんので、これから創造していきますし、お客様、地元の方々、従業員、皆が集まれる場所をつくることで、鎌先温泉という全体として1つのコミュニティができあがるのだと考えています。

塩川:まず「自分が泊まりたい宿」を実現されて、次のステップとして「地域がこうあったらいいな」という理想を求めていかれるのですね。もうひとつ、本館の建物は有形文化財の指定を受けた歴史ある建築物ですが、ここをどのように活用していかれますか?この場所も、1つのコミュニティスペースとして大切にしていかれるのでしょうか。

一條:歴史的、文化的価値を見出すことによって、この建物を残すきっかけにしていきたいと思います。レストランのような形でもいいですし、蔵の中に残っている古文書などを背景にしながら資料館もつくりたいですね。古い建物というのはデザインが素晴らしいですよね。今の建物というのは奇抜で、土地に根ざしていないものも多いのです。ここもいつかは建物を直さなくてはいけないでしょうけれども、スクラップ・アンド・ビルドをやるときにはこの土地にあったものをつくりたいですね。父がなぜこの建物に手を付けなかったか、手を付けられなかったのかと考えるのですが、私はこの価値を分かっているがゆえに手を付けなかったのだなと思うのです。

塩川:これから湯主一條がどのように展開していくのか、その自由なイメージが伝わってきます。次のテーマは、「地域とともに」ということなのですね。

一條:つくづく思うのは、集客も大切なのですが、重要なのはここを目的地にしてもらうということです。湯主一條の本館は素晴らしい文化財で、そこには教育の行き届いていてきちんと建物の説明をできるスタッフがいる。だから鎌先温泉に行く、というように、ハイセンスな方々に選ばれるような場所を目指していきたいですね。また、私はなぜここにいるのか、なぜ生まれなければならなかったのかということを深掘りした状態で、次の世代に「湯主一條」を渡せたらと思っています。

塩川:ご先祖様から受け継がれた宿命を、よりよいかたちで次世代に残していこうという心意気を感じることができました。本日はありがとうございました。

陶泉 御所坊

写真:熊谷 憲昭 / 文:宮本 とも子

時音の宿 湯主一條 第20代目当主 一條 一平

時音の宿 湯主一條 第20代目当主

一條 一平

1969年、「一條達也」として生を受ける。宮城県出身。ホテルインターコンチネンタル東京ベイにてフロントとコンシェルジュを経験。日本コンシェルジュ協会ホテル会員。2003年に湯主一條の社長に就任。2014年3月、裁判所の許可を得て代々続く「一平」に襲名し20代目となる。

Ichijoh

Ichijoh

宮城県 > 白石・蔵王

森に囲まれた伝承600余年の老舗旅館。2008年にフルリノベーションされ、古き歴史や風情と新しく快適な空間を兼ね備える宿。