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熊本地震に気付かされたこと

塩川:熊本地震をきっかけに、黒川温泉のあり方についても思うところがあったのではないでしょうか。

北里:そうですね。今回の震災の特徴として、余震の回数が多いことがありました。4月14日に前震があり、16日に本震があった際にはまだ通常の3〜4割の宿泊客の方々がいらっしゃったのですが、夜中に地震が発生したときには避難所で一夜を過ごしたのですよ。旅館では最初の数日間は周辺の情報を含めて、どのような状態になっているのか、全体の被害はどうなのかなど情報収集に明け暮れましたね。

塩川:震災当時、御客屋の代表でありながら地区の組合長という立場でもあったのですね。

歴史の宿 御客屋 歴史の宿 御客屋

北里:はい。震災から1週間が経過した日曜日に緊急の全体会を招集しまして、黒川温泉の旅館全軒に揃っていただいて、そこで直接それぞれの社長さんや責任者などすべての方に宿の被害状況、見通しをご報告いただきました。それから、営業可能なお風呂が30軒中16軒ほど確認できたので、被災された方々のお風呂の受け入れだけでもしようというところで決議を取りまとめました。また、ゴールデンウィークが迫っておりましたので、これ以上の観光被害が広がらないよう、正確な情報を発信していくことに努めました。

塩川:黒川温泉には観光でいらっしゃるお客さまがメインですけれども、この地域を社会インフラとして見たときに、自分たちは何をすべきかということを考えるきっかけになったのではないでしょうか。

北里:はい。本震があった16日の避難の際には、旅館には寝具も食べ物もありますし、板場さんもいますので、食材を旅館ごとに持ち寄って大きな鍋で炊き出しをしました。今まで有事の際の対応をしたことがなかったので、いい勉強になりましたね。

塩川:その危機を乗り越えたところに風評被害があり、お客さまが安心感を持ってお越しいただけるまでには時間がかかったと思うのですが、それまでの期間はどのような過ごし方をされたのでしょうか。

北里:正直なところ、7月1日からの九州復興割が大いなる後押しになったことは事実です。それまでの期間はどうあがいてもどう動き回っても、お客さまが戻ってこないということを経験しました。もう1つは、メディアの皆さま方から「被害はどうでしたか」という視点でご取材を受けることが多かったのですね。生命のために正しい情報は必要なのですが、いち早く元気な情報、前を向いた情報を発信するように、私たちも応対を変えていきました。

塩川:そうした前向きな情報発信、復興割の後押しもあり、少しずつお客さまが戻って来られたのですね。

北里:熊本県内で主に被害が大きかった場所、少なかった場所、いろいろあるのですけれども、親戚や友だちでしたり近い関係の人たちが避難所にいる状況だったのですね。人間の行動を抑制するのは罪と恥というふうに聞いたことがありますが、やはり罪悪感というものはありまして、「黒川温泉は大丈夫です、元気です」ということを発していいものかどうか、1〜2ヶ月はとても葛藤がありましたね。

塩川:もっと苦労している人がたくさんいらっしゃる中で、黒川温泉から声を発信するのはどうかという葛藤があったのですね。

北里:そうですね。しかし、熊本城の姿もそうですし、阿蘇神社もああした形になりましたけれども、人が来てこの姿を見ていただくということには可能性があると思いましたので、先頭に立ってやらなくてはいけないという気持ちになりました。

塩川:今できることをやろうという当事者意識が、危機のときだからこそ前面に表れたのかもしれませんね。

北里:4月に熊本地震が起き、その地震で揺れた場所が6月の豪雨で何ヶ所か土砂崩れに遭い、9月には阿蘇山が久しぶりに大規模な噴火をしました。この地域の自然災害はなくなりません。これからも起こり続けるし、そのために強くなったり学んでいかなくてはならないと感じました。どこの地域でもおそらく地震のご不安を抱えていらっしゃるし、人間は時々おごってしまって、自然をコントロールできるという感覚になってしまうではないですか。その原点に私たちは立ち返ったのだという思いですね。自然の恵みの1つが温泉ですので、表裏一体なのです。

歴史の宿 御客屋

塩川:自分たちが持っている山や温泉などの財産、身近な仲間といったものはそうした尊い縁で結ばれていると感じる機会だったのですね。そうなると、お客さまに対しても、あらためて違った感覚を持たれたのではないですか?

北里:地震の直後はリピーターのお客さまに本当に支えていただきましたね。ご連絡もたくさんいただきましたし、実際に泊まりに来ていただいた方々の存在がありがたかったです。そして復興割が始まってからは地元熊本のお客さまの割合がぐんと増えました。近年、地元のお客さまから、黒川は高い、予約が取れないと敬遠されるきらいが出ていたのですよ。それが、こういう機会だから久しぶりに来てみたというお声をたくさんいただきまして、それはそれで1つ地震がもたらしてくれたものでした。

歴史の宿 御客屋 七代目御客番 北里 有紀

歴史の宿 御客屋 七代目御客番

北里 有紀

熊本県阿蘇郡南小国町出身。21歳で実家の御客屋での勤務を開始し、黒川温泉 青年部に入部。その後、御客屋の七代目御客番として青年部長などを歴任。現在は史上最年少、女性初の黒川温泉観光旅館協同組合代表理事を務める。また、2013年に仲間と立ち上げた「NPO法人 南小国まちづくり研究会 みなりんく」では代表理事を務め、地域×企業等の新しい共創プロジェクトに取り組んでいる。

Historic Inn Okyakuya

Historic Inn Okyakuya

熊本県 > 黒川・杖立

江戸末期に創業した黒川温泉一の老舗旅館「歴史の宿 御客屋」。約300年に渡ってこんこんと湧き出る天然温泉かけ流しの湯や、懐かしさを感じる和室でお寛ぎいただけます。笑顔あふれるアットホームなおもてなしが詰まった宿です。