北里:熊本地震によって、自分たちの地盤がぐらつきました。それから、「住んでよし、訪れてよし」の策を優先的に、両輪ですけれどもやっていこうと思っています。
塩川:そこにいる方が、居場所があって、心地よくて、お互いを尊敬し合えるような場所であり続けるということですね。
北里:まずいちばん大事だなと思うのは、業界全体での働き手不足の問題です。黒川温泉では、立地として「暮らす」と「働く」が一緒になるのですよ。例えば東京にいらっしゃったら仕事でいろいろなことがあっても、通勤の時間中に切り替えることができます。しかし黒川では、この中で暮らして働いてということが一緒に成り立たないといけません。旅館や組合というのはお客さまに来ていただくということに注力しがちですけれども、やはり「住んでよし、働いてよし」が勝らないと、「訪れてよし」はありません。
塩川:居心地のいい空間を共同体として一緒につくりあげていく、そういうDNAが北里さんの中にあるのだなとお聞きしていて思いますね。
北里:運命共同体で生きていくというのはどういうことだろう、というのをずっと探しているような気がしています。私が黒川温泉に帰ってくることを選択したのは、おぼろげに覚えている祖父や両親の背中があったからだと思っていますが、自分がその立場になってみて感じるのは、本当の成功とは、私たちが四半世紀走り続けたあとにこの仕事を継いでくれる、そういう人間がいる、仕事が遺るということがゴールになることではないかと思います。
塩川:利益の本質とは、一時的ではなく永続的に必要とされることではないかなと思うのですが、有限である命が次の命に継承され続ける、そしていろいろな人脈をつむいで行ける、語り継いでいけるというのが一番の成功かもしれませんね。共同体で頑張っていこうとする姿に、多くの方が共感されるのではないでしょうか。
北里:まさにこれからですね。黒川にしかできないことを進めていこうと思っているところで、先ほど申し上げた「黒川一ふるさと」や、「第2町民」の仕組みを確立していこうというふうに思っています。
塩川:「黒川一ふるさと」の意味は、黒川の「第2町民」を増やす、関わりたい人を増やすということですよね。
北里:究極のリピーターづくりとはなんだろうと考えたときに、今までの観光業界ではリピーターのお客さまとは主従の関係になりやすいということに思い至りました。例えば団塊の世代の旅行というのはあと10年したらほとんど動かれなくなりますよね。観光業界はそこに照準を合わせていろいろな商品造成をしてきたところもあるので、次のターゲットを考えなくてはいけません。それが世界のミレニアム世代です。彼ら、彼女らは共感やストーリーをとても大事にされます。世界のスタンダードはB&Bですので、1泊2食のパッケージスタイルが難しい。そこでこの街の中で必要な機能はなにかを考えると、自分たちだけでやるのではなく「第2町民」の方と一緒にお仕事できることもあるかもしれませんよね。この黒川を、自分たちも住みよく、訪れてもよい場所に構築することを、いろいろな方々との関係性の中でやっていこうというのが「第2町民」の構想です。
塩川:これは新しく、貴重な世界観だという気がします。インフラをつくって解決するものではなく、ものとお金だけではない、「人」という部分で一番むずかしい領域かもしれませんね。
北里:「第2町民」を実行するには必ず何かしらの仕組み化は必要だと考えていまして、3パターンにセグメントしました。まずは、エントリーの方。黒川を知っている、街を歩いたことがあるというお客さまですね。次は、何度か泊まりに来ていただいているファンの方。その上に、親善大使になっていただけるくらいの関係性のあるアンバサダーの方。そして、このアンバサダーの方々を招待して、地元の人間しか知らないとっておきの楽しみ方を体験してもらうイベントなどを試したいと考えています。例えば、昨年9月に炭窯事業を行ったのですが、火入れをしているうちに日が沈むと星がとてもキレイで、秋のグランピングに最適だと感じました。こうした体験をしていただくことで、黒川のよさをそれぞれ発信していただければと思います。新しい取り組みを広げていくためにも観光業を仕事にするメンバーが出てこないとうまくいきませんし、そのためにきちんと対価の質を上げて、稼がなければ続かないと考えています。
塩川:どういうお客さまがいらっしゃって、どういう方に支持されていくかというのを考えていらっしゃるのですね。
北里:もともと黒川温泉は半農半宿の集まりでしたので、それがベースの豊かさであり、宿の役割だったのですよ。田んぼで米をつくり、畑で野菜をつくり、山林の手入れをきちんとして、その資源が持つ豊かさを最大限みなさまと享受するということが、お客さまに対する私たちの役割ではないかなと思います。
塩川:東京にいると、そういう風景は遠い存在です。まさに心のふるさととしてコミュニティの外の方にも残していくという位置づけになっていくのかなと思いますね。
北里:私たちのコンセプトは一貫して変わらず、黒川全体で都市と対極にある究極の田舎をつくり続けていくのですよね。その中で、私たち自身のライフスタイルの都市化も課題になっています。例えば、経済的に力を持てばお金の力である程度なんでも解決できてしまいます。しかし、きちんと取捨選択をしていかないと、便利になる一方で風情や文化を簡単に失ってしまうことになりますね。
塩川:確かに究極の田舎というものは、どんどん価値が高まっていきそうです。価値に気づける人がいなくなってしまうと、紡がれてきた伝統や文化が今以上のスピードで失われていく可能性もありますよね。
北里:黒川温泉には、競争と共創の2つ姿勢があるのですよ。これをフィフティ・フィフティでやろうというのが先代のときからの教えです。具体的には「個は競う。しかし、全体は一緒にやる。」ということの実践だと考えています。個々の旅館のしつらえ、館内・部屋・風呂などの設備、料理の素材や献立、人材育成やおもてなしの質の向上など、これらは旅館ごとに独自の提案をみがき、互いに刺激し合いながら競うということは当たり前の努力だと捉えています。一方で、黒川温泉という地域全体のことは、共に対話し、共に行動する。この2つの姿勢を大事にして、今後もチャレンジし続けたいと思っています。
塩川: 旅館としてはお互いに切磋琢磨しながら、地域としては団結して新しいものをつくっていく。その2つの姿勢の両輪で黒川温泉を回していくということですね。ますます黒川温泉のファンになりました。貴重な時間をありがとうございました。
写真:中島 舞 / 文:宮本 とも子
歴史の宿 御客屋 七代目御客番
北里 有紀
熊本県阿蘇郡南小国町出身。21歳で実家の御客屋での勤務を開始し、黒川温泉 青年部に入部。その後、御客屋の七代目御客番として青年部長などを歴任。現在は史上最年少、女性初の黒川温泉観光旅館協同組合代表理事を務める。また、2013年に仲間と立ち上げた「NPO法人 南小国まちづくり研究会 みなりんく」では代表理事を務め、地域×企業等の新しい共創プロジェクトに取り組んでいる。
熊本県 > 黒川・杖立
江戸末期に創業した黒川温泉一の老舗旅館「歴史の宿 御客屋」。約300年に渡ってこんこんと湧き出る天然温泉かけ流しの湯や、懐かしさを感じる和室でお寛ぎいただけます。笑顔あふれるアットホームなおもてなしが詰まった宿です。
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