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「旅館のサービス」を認めてもらうために

篠塚:リニューアルされてからは順風満帆な印象を受けますが、その中で乗り越えられてきた大きな壁はありましたか?

鈴木:はい。リニューアル後のメインは団体のお客様だったのですが、バブル崩壊以降、団体のお客様の数が右肩下がりになってしまったのです。その減少に歯止めがかからない中、平成14年の設備投資では売上単価を利益に還元できるよう高質化路線をとることになりました。それまでの44室に加え、新たに露天風呂付き客室を8室増やして52室にしたのですね。しかし、そうなると旅館のサービス、料理としては圧倒的にシェアの大きい44室に注力することになってしまうのです。そうすると当然のごとく8室のお客様からはご不満の声が上がりますよね。新しい8室のオープン初年度の稼働は98%と高かったものの、お客様からは不満がたくさん出てしまったのです。

食べるお宿 浜の湯食べるお宿 浜の湯

篠塚:そうした状況を打破するために、どんな工夫をされたのでしょうか。

鈴木:まずは料理の改革を始めました。圧倒的なボリューム感で驚かせるというそれまでの料理から、一品出しの料理に少しずつシフトしていったのです。平成19年には8億円をかけて露天風呂付き客室をさらに8室増設する一方で一般客室も改装し、全体的な単価を引き上げることで完全な一品出し料理に切り替えました。ただし、基本的な舟盛りのボリューム感や、昔ながらのリピーターさんが好んでいた部分は継承しました。浜の湯の成長を助けてくれたのはリピーターの方々ですので、その方たちに失礼のないようにしようと。しかし、ベテラン社員が高質化路線に反発して辞めていってしまいました。その代わりに、積極的に新卒採用を始めたのです。

篠塚:社会の縮図のようですね。今までのやり方に慣れているからと既得権益を守る方と、顧客価値を上げようという新興勢力の戦いに陥ってしまったのではないでしょうか。

鈴木:そうですね。浜の湯の息子は馬鹿だ、四大卒の子が旅館の仲居なんてやるわけがないと、そんなことを言われたこともあります。でも、それでくじけてしまえば誰もやっていないことに挑戦した意味がありません。当時、書店に行けばリッツ・カールトンやディズニーなどサービスの本が並んでいますが、旅館の接客サービスを説いている本は1冊も見かけたことがなかった。旅館のサービスというのはそこまで認められていなかったのです。それを変えたいからこそ、質の高いことをやりたいと思いました。その後も新卒採用を続け、4年ほどで従業員数20名のうち半数を若いスタッフが占めるようになり、主導権も若いスタッフに移っていきましたね。

篠塚:鈴木社長の「旅館のおもてなしをもっと日本に広めたい」という思いは、どこからきているのでしょうか。

食べるお宿 浜の湯

鈴木:浜の湯という旅館が本当に好きだからこそ、誇りを持ってお客様を迎えたいというところからきています。リッツ・カールトンでは顧客と向き合い、顧客情報を的確に入手した上でサービスに反映させている。昔ながらの完全担当制の部屋出しをしている旅館であれば、絶対にそれに劣らないサービスをご提供できると思ったのです。1泊2食にまたがって完全担当制をしている仲居さんの情報収集力を活かすこと。それを完璧にやりきろうと思ったのです。やりきるためには、それをこまめにできる人、情報収集、展開、対応ができる優秀な人物が不可欠でした。

篠塚:それを実現するために積極的に新卒採用をされて、情報収集やサービスにどのような影響があらわれていますか?

鈴木:新卒採用のスタッフが半数を超えた頃、社内で顧客カルテをつけることを義務化しました。当初ベテランのスタッフは反発していたのですが、若いスタッフが顧客カルテを活用することでお客様からお褒めの言葉を頂くようになり、そのコメントを見て徐々にベテランのスタッフも取り組むようになりましたね。宿泊施設というのは設備投資をしたオープン初日が一番商品力の高い状態であり、毎年お越しになるお客様からすれば、施設の魅力は年々下がってしまうのです。しかし、人的サービスの商品力というのは、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と常に右肩上がりで高まっていくものです。それをより高めるための1つの方策が、顧客カルテの活用だと考えています。

食べるお宿 浜の湯

篠塚:年数を重ねるごとに劣化してしまう施設の設備については、自体は定期的な投資で改善を繰り返す。一方で、人が介在するサービスへの満足度というのは来館回数を重ねるごとに上がっていくということですね。

鈴木:そうです。業績が右肩上がりなのは、リピーター比率が高まっているからなのです。リピートしていただけているのは決して設備が良いからという理由ではなく、今までのサービスの蓄積なのです。「この仲居さんに会いたくて」と人についてきてくださる。旅館の仲居さんほど働く価値、働きがいが高いものはないと思いますね。そのお客様にとっては自分が主役ですから。そうした中で、昔ながらの旅館のスタイルを大切にしていきたいと思っています。仲居さんによる料理のお部屋出しのスタイルや、出迎えからお見送りまでの完全担当制。和室におけるふすまの開け方からはじまって、お辞儀の仕方、起座の姿勢で料理の提供をすることなど、今ではほとんど見かけられない「日本の文化」を後世に伝えたいですね。

篠塚:変化させるべきはきちんと変化させていきながら、残すべきはきちんと残すというやり方ですね。残すべきところと変えるべきところというのは、どのような軸で考えられていますか?

鈴木:「自分のつくりたい旅館」に合うか合わないかですね。ですから、部屋出しをやめようと思ったことは一度もありませんし、拘束時間が長くなったとしても仲居さんによる担当制をやめようとも思いません。担当制をなくしてしまったら、浜の湯で働く客室係たちはみんな働きがいを失ってしまう。料理提供をさせていただくわずか2時間しか主役になれないとしたら、自分の「ファン」をつくれませんから。

食べるお宿 浜の湯 代表取締役社長 鈴木 良成

食べるお宿 浜の湯 代表取締役社長 鈴木 良成

鈴木 良成

1964年、静岡県出身。当時釣り宿(民宿)だった「浜の湯」の長男として生まれ、大学卒業後2年間、山形県の「観松館」にて旅館業の修行を積む。その後「浜の湯」へ戻り、1995年(22億円)、2002年(6億円)、2007年(8億円)、2010年(3億円)の設備投資などを通じて施設の拡大に寄与。2008年より代表取締役社長を務める。

Ryokan HAMANOYU

Ryokan HAMANOYU

静岡県 > 東伊豆

名物・稲取金目をはじめ、新鮮な魚介類を余すところなく提供する「食べるお宿」。目の前の海を眺めながら、美食を味わえる一軒です。