2021.12.24
第51回 おもてなしの頂点・フォーシーズンズの魅力を届ける、2人の挑戦。
フォーシーズンズホテル丸の内 東京 総支配人 チャールズ・フィッシャー/SÉZANNE 総料理長 ダニエル・カルバート
総支配人チャールズ・フィッシャー氏と、リニューアルオープンしたレストランSÉZANNE 総料理長ダニエル・カルバート氏は昨年フォーシーズンズホテル丸の内 東京に足を踏み入れました。今後お二人が作り上げていくフォーシーズンズホテル丸の内 東京はどのようなおもてなしを私たちに見せてくださるのでしょうか。
ゲスト
フォーシーズンズホテル丸の内 東京 総支配人
チャールズ・フィッシャー
1976年、イギリス生まれ。1999年にフォーシーズンズ ホテル ロンドン アット パークレーンに入社後、米国、中南米、タイ、ハワイを経て、2021年にフォーシーズンズホテル丸の内 東京の総支配人として着任。
ゲスト
フォーシーズンズホテル丸の内 東京 SÉZANNE 総料理長
ダニエル・カルバート
1987年イギリス生まれ。ロンドン、パリ、ニューヨーク、香港の名立たるレストランにて活躍。フォーシーズンズホテル丸の内 東京の総料理長として着任してわずかながら、2021年11月30日に「SÉZANNE(セザン)」がミシュラン「1つ星」を獲得した。
インタビュアー
株式会社 Loco Partners 営業部 部長
新村 崇
大学卒業後、組織人事コンサルティング会社に入社。様々なクライアント企業の人事・組織開発プロジェクトに従事。2013年に株式会社Loco Partnersに入社し、Reluxのサービス立ち上げに参画。日本全国の宿泊施設様への営業活動等に従事し現職に至る。
第1章 世界中を旅しながら働く、夢の実現
新村:最初に、チャールズさんのこれまでの歩みについて教えていただけますか。
チャールズ:生まれはイギリスですが、父が航空会社で働いていた関係で、世界中を移動しながら育ちました。世界中を旅してさまざまなことを経験することが好きなのはそのおかげです。航空会社で働くことも考えていたのですが、父に「別の業界で働いてみなさい。」と言われたことや、世界中を移動する中で様々なホテルを見て、興味をもっていたため、ホテル業界に進むことにしました。そこで、イギリスのオックスフォード・ブルックス大学に進学し、ホテル・レストラン経営学の学士号を取得しました。大学を卒業したのは1999年で、卒業の3日後には、フォーシーズンズ ホテル ロンドン アット パークレーンで働き始めていました。ラッキーでしたね。
新村:フォーシーズンズを選ばれた理由はありますか。
チャールズ:いくつかの大きなホテルブランドの面接を受けたのですが、フォーシーズンズだけが、フロントで働いたことがない私に、「フロントでの仕事をお願いしたい。」と言ってくれました。なぜフロントで働かせてくれるのかと疑問に思い尋ねたところ、「私たちは、あなたの人間としての魅力、つまりは考え方や気遣いが好きだし、もちろんビジネスに対するあなたの情熱が好きなので、一緒に仕事をしたいと思いました。私たちが好きなのは人です。」と言ってくれたのです。その頃、多くの企業は、履歴書をみて、その仕事に必要なスキルを持っているかどうかで合否を判断していました。しかし、フォーシーズンズは違ったので、フォーシーズンズを選ぶことにしました。そこから今日まで22年が経ちましたが、フォーシーズンズに入社したことは、人生で最も良い決断だったと今でも思います。
新村:運命的な面接だったのですね。入社後はどのようなキャリアを歩まれてきたのですか。
チャールズ:フォーシーズンズ ホテル ロンドン アット パークレーンでは、フロントデスクから始まり、ナイトマネージャーまで昇進しました。そして、2003年にニューヨークに移る機会を得ました。この会社に入社したもう一つの理由は、世界中を旅しながら働くことだったので、喜んで受け入れました。ニューヨークで2年弱働いた後、2005年の夏にホテルが売却されたので、私はロンドンに戻りハウスキーピングのポジションの経験を積ませてもらうことになりました。2年ほどロンドンで暮らすことになるだろうと、ロンドンに戻った2ヶ月後に今の妻と結婚をしましたが、その2ヶ月後に再び異動の機会が巡ってきました。妻は理解を示してくれたので、一緒にカリブ海へ行きました。船の管理などのマリンオペレーションも学びながら、4年ほど過ごしました。ホテルの敷地がハリケーンの被害にあったため退去することとなり、次はシンガポールに移住しました。シンガポールで2年間、タイで2年間、その後はハワイに4年いましたが、タイでは初めて言葉が通じない経験もしました。大きな挑戦でしたね。
新村:世界中を旅しながら働いていらっしゃったのですね。
チャールズ:ハワイでのプロジェクトが終了したタイミングで、ウォルト・ディズニー・ワールドのフォーシーズンズ リゾート オーランドに移りました。オーランドでの4年間はホスピタリティの新しい側面も学べた素晴らしい時間となりました。アメリカのビザが昨年の8月までだったので、新しい仕事を探さなければいけなくなり、これは苦労しましたね。運よくフォーシーズンズホテル丸の内 東京の現在のポジションに空きが出て、ここに来ることができました。それまで私も妻も、日本には一度も訪れたことがありませんでしたが、日本での生活や仕事について素晴らしい話をたくさん聞いていたので、日本は働いてみたい場所の一つでもありました。採用が決まった後、入国制限やビザ申請などで入国するのにも時間がかかりました。私が到着した1ヶ月後には再び入国制限が厳しくなったため、無事ここにたどり着けたのは非常に幸運だと感じています。
新村:本当に様々な経験をされて日本に来られたのですね。聞いていてワクワクするお話でした。子供の頃から世界中を旅することを夢見ていて、それが実現したのは素晴らしいことですね。
チャールズ: 誰もが人生に夢を持っていると思います。そして、私は自分の夢を実現する機会を得られたので、幸運でした。もちろんあちらこちらへ移動しながら生活をするのは簡単なことではありませんし、もう4年も両親にも会えていないなど、犠牲になることもあります。ですが、短い人生の中で世界中のより多くのこと、多くの文化を経験し、世界がいかに多様であるか。そして、そこに住む人々を理解する機会を得ることができたのは非常に大きな体験です。そしてそれを子供にも経験させることができています。今はジェネラルマネージャーとして会社にいるので、同じように世界を旅したいと思っているスタッフには、同じチャンスを与えることが私の責任でもあります。
新村:ご自身の経験を周りの人にも伝えていかれているのですね。
第2章 おもてなしの頂点、フォーシーズンズで歩み続ける
新村:フォーシーズンズ以外にも、世界的なホテルブランドは多くありますが、その中でもずっとフォーシーズンズで働き続けていらっしゃる理由はありますか。
チャールズ:よく聞かれます。フォーシーズンズで働き続けている理由の一つは、フォーシーズンズがホスピタリティやラグジュアリーなおもてなしの頂点であると思っているからです。お客様、スタッフ、そして居住者の方々へ記憶に残る体験をするために何をすべきかということを学び続けられる環境です。もう一つは、会社の規模が小さいことです。規模が小さいからこそ、社内では誰もがお互いを知っていますし、繋がりも深く、サポート体制も整っています。そして、その中でも留まることを選んでいる1番の理由は、私が働くのに最適な会社であり、価値観も一致しているからです。会社が私にコミットしてくれています。
新村:会社と同じような考え方で歩むことができるのですね。これまで、世界中のフォーシーズンズで過ごされてきていらっしゃると思いますが、その中でも思い出に残っているエピソードはありますか。
チャールズ:場所や環境も異なりますし、もちろんその中での仕事もユニークだったので、選ぶのは難しいですね。ロンドンやニューヨークにいた頃は日々の業務をこなすので精一杯でしたが、私の思い出のほとんどはこうした日常からきているのだろうとも思っています。特に印象に残っていることの一つがハワイでのプロジェクトです。共に働いていたスタッフに対して、「業界最高レベルのオペレーションができるメンバーなんだ。」「私たちがお客様に提供しようとしているものが何であるかを理解していれば、どんなことでも達成できるんだ。」と思ってもらえるようにしました。特別なことをしたわけではありませんが、彼らを信じて励まし、私が信じている正しい方法、正しいアプローチを見せるようにしました。私が去った後の彼らの活躍も見ていて素晴らしいものなので、いつか家族とハワイに戻って、スタッフの成長を見たいと思っています。
もう一つはチェンマイでの思い出です。大きな変化があったわけではありませんが、自分のキャリアの中で初めて、「お客さまが滞在中にどのように感じるか」。その結果として、「お客さまの体験が私たちにとってどのようなものになるか」という相互の関係性を理解しました。フォーシーズンズ リゾート チェンマイは64室の美しい小さなホテルです。水田の周りに建てられており、水田は庭師たちが毎日手入れをしています。その庭師たちの経験や、水田が変化していく様子をどうやってお客さまと共有するか考えていたとき、農家の人たちの伝統的な音楽演奏を披露することにたどり着きました。ベッドや机を用意し、食事を作り、温かいシャワーを提供することは誰にでもできます。しかし、ホテルでの滞在の終わりに持ち帰ることのできるのは、経験と思い出です。ゲストに楽しんでもらうことがいかにパワフルであるかがよくわかります。私たちの仕事はこのような体験や、滞在する家族の思い出を作ることだと感じています。
新村:本当に一つ一つのストーリーが素晴らしく、世界中の様々な環境の中だからこそ、それぞれに思い出深い体験があるのだと感じました。チャールズさんのお人柄にも興味があります。日常生活で大事にしていることはありますか。
チャールズ:まずは家族です。何か決断をするときに、それは自分の家族のため、子供たちのためになるのか、と考えます。子供たちの将来に可能な限りのチャンスを与えることが親の責任だと考えています。そして、最終的には私の人生を支えてくれるのも家族です。もう一つが、常に思慮深く、どうすれば相手にとって上向きなことが提供できるかを考えることです。私たちは小さなチームなので、スタッフが自分の考えを共有しても、トラブルにはなりませんし、誰も批判したりしません。ホテルの成功に向けて一人一人の貢献が必要で、貢献するための唯一の方法は、自分のアイデアを提供し、プロセスの一部になれると知ることです。スタッフの仕事は、料理を出したり、ベッドを整えたり、ゲストをチェックインしたりするだけではありません。一日を通してチームや個人、お互いの経験に貢献することが仕事なのです。
新村:ありがとうございます。ご家族、そして、チームとの関係性を非常に大切にされていらっしゃるのですね。
第3章 パーソナルなおもてなしを届ける、小さなホテル
新村:フォーシーズンズホテル丸の内 東京だけがゲストに提供できることはなんですか。
チャールズ:これは簡単で、私たちは東京で最も小さなラグジュアリーホテルだということです。小さなホテルだからこそ、お客さま一人一人と向き合うことができます。私たちには他の5つ星ホテルのようにプールがあるわけでも、6つのレストランがあるわけでもありません。ただ、それらは「必要ない」と思っています。本当に必要なのは、情熱と思いやりのあるスタッフと、お客さまに素晴らしい思い出を提供したいという心です。「なぜフォーシーズンズは安くないのか。」と聞かれたら、私は「お客さまが家の中にいるような感覚になり、お客さま個人と本当に結びついた体験を提供できると心から信じているから。」と言います。ホスピタリティは、家の中でホストに歓迎されている状態と同じだと考えています。なので、私たちはホストとして、1泊でも2週間でも、ゲストに同じ体験をしていただくことを考えています。
新村:世界中で本当にいろいろな経験をされてきたチャールズさんだからこそ、東京という場所でパーソナルなサービスを作っていかれるのだと感じました。先日レストランに伺った際も、ホスピタリティに溢れていることを感じました。
チャールズ:ホスピタリティも「私のおかげではない」と言い切れます。このチームは素晴らしいチームです。チームがなぜ素晴らしいサービスをするのかは、上に立つものの問題ではなく、スタッフみな自然に信じて、行動しているからだと思います。お客さまのために何かをしたいと思ったときには、私がイエスと言うのを待つ必要はないとも伝えています。これは、チームがその場で必要なことを何でもできるようになることが非常に重要だと考えているからです。
新村:お一人お一人から、フォーシーズンズホテル丸の内 東京のホスピタリティが出来上がっているのですね。最後の質問です。これからいらっしゃる世界中のお客様へどのような体験を提供していきたいか、展望はありますか。
チャールズ:いつでもたくさんのアイデアを持っています。より良いものを作ろうとし続けないとビジネスとして成長できないと思っています。それから、食に精通し、素晴らしい才能と、食体験への情熱を持ったダニエルがいれば間違いないとも思えます。ホテルに泊まる時はおそらく、必要があるから泊まっているという方が多いのではないでしょうか。私たちがこのホテルで目指すのは、「食を体験したいからこのホテルに泊まる」というホテルです。そして、この利点を生かして、東京だけでなく世界でも知られるホテルになることです。このホテルに行って、滞在して、食体験を楽しまなければなりません。素晴らしいチームがいて、パーソナライズされた空間で、美しい食事と飲み物が楽しめるホテルは、私の目標のひとつでもあります。自分が情熱を持てるものを見つけられたのはとても幸運なことだと思います。
新村:ありがとうございます。これからが楽しみです。
第4章 「日本にある、フランス料理のお店」としての思い
新村:東京にこられて、SÉZANNE(セザン)のレストランに着任されて約5ヶ月ですね。いかがでしょうか。
ダニエル:無事にオープンして、今はもう安心しています。最初は違う国から来て、ゲストに味覚を楽しんでいただけるかどうか、視点を理解してもらえるかどうか、という思いもありましたが、今はゲストにレストランも食事も楽しんでいただけているように感じています。4回、5回と何度も足を運んでくださっている方もいらっしゃいますし、日本人はいつも思った通りのことをおっしゃってくれるので、楽しんでいただけているのだと感じられています。一方で、私たちがこだわっている日本の食材を使った料理をもっと感じていただきたい思いもあります。私たちは、チャレンジとして日本の食材を使っています。SÉZANNEを、フレンチのレストランではなく、日本にあるフランス料理店として感じていただきたいです。
新村:日本のフランス料理店ですね。先日レストランにお伺いしましたが、ホスピタリティを感じました。すごくリラックスできる空間ですね。
ダニエル:ゲストへの感謝の気持ちは常に忘れないようにしています。東京にはたくさんのレストランがあります。つまり、ゲストはそれだけ選択肢があるということです。その中でSÉZANNEを選んでいただけているという、感謝の気持ちは常に持っています。ここは高級レストランではありませんが、リーズナブルなレストランでもありません。なので、SÉZANNEでお金や時間を使っていただけることに感謝をしなければいけませんし、その思いを持つことでホスピタリティのあるおもてなしができると思います。
新村:SÉZANNEでのお食事は、新しい体験でした。例えばさんま一つとっても、食べたことのない食べ方でした。
ダニエル:食材の中には日本的なものもあり、日本料理にしか使えない食材もあります。さんまのように脂ののった魚はヨーロッパ的だと思ったので、私が扱いやすい食材だと思いました。
新村:まさに日本のフランス料理店らしい食べ方だったのですね。日本の食材はダニエルさんにとって何か特別に感じる部分はありますか。
ダニエル:もちろんあります。最も興味深いのは、文化や人々が食材に敬意を払っていることです。このことは、料理をするときも忘れないようにしています。日本人は日本の食材についてよく知っていて、ある種の期待も持っています。なので、期待を裏切ることは避けたいと思っていますし、それが私の責任でもあります。
新村:SÉZANNEではゲストにどんな体験をしてもらいたいですか。
ダニエル:私たちを信頼して楽しんでほしいと思っています。また信頼を感じると嬉しく思います。ゲストと私たちレストランが素晴らしい関係であることが、最も重要だと思っています。
新村:今後、SÉZANNEをさらに発展させるためのアイデアはありますか。また、これからいらっしゃるゲストにダニエルさんからメッセージがありましたらお願いします。
ダニエル:食材のことは常に考えています。例えば来年はどこの松茸を使おうか、どの料理を作ろうか、などはすでに考えています。食材をよく見て、より良い仕事をしようとしたり、より良い料理を作ろうとしたり、ゲストのご意見を聞いて改善しようとしたりするだけです。是非「お腹が空いた、喉が乾いた」という状態でいらしていただきたいです。
新村:とてもわかりやすいメッセージですね。ぜひ、記事をご覧いただいた皆さまにも、お腹を空かせて来て頂きたいと思います。ありがとうございました。
写真:白石 葵 / 文:伊藤 里紗
フォーシーズンズホテル丸の内 東京 総支配人
チャールズ・フィッシャー
1976年、イギリス生まれ。1999年にフォーシーズンズ ホテル ロンドン アット パークレーンに入社後、米国、中南米、タイ、ハワイを経て、2021年にフォーシーズンズホテル丸の内 東京の総支配人として着任。
フォーシーズンズホテル丸の内 東京 SÉZANNE 総料理長
ダニエル・カルバート
1987年イギリス生まれ。ロンドン、パリ、ニューヨーク、香港の名立たるレストランにて活躍。フォーシーズンズホテル丸の内 東京の総料理長として着任してわずかながら、2021年11月30日に「SÉZANNE(セザン)」がミシュラン「1つ星」を獲得した。
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