第52回 お客さまが帰ってきてくれるホテルへ。ザ・テラスホテルズのこれまでとこれから。

自然との共生を大切にした「ザ・テラスホテルズ」。「テラス」という名前のようにオープンな心で人々をお迎えし、お客さまに慕われ続けている新垣氏に、これまでのエピソードと自然に対する想いを伺いました。

ゲスト

ザ・テラスホテルズ 取締役常務執行役員 新垣 瞳

ザ・テラスホテルズ 取締役常務執行役員

新垣 瞳

沖縄県出身。1973年日本IBM入社。1982年ハンドバッグデザイナーへ転身。1989年ADRI入社。オーストラリアでのリゾート開発に携わる。1997年名護国際観光株式会社(現・ザ・テラスホテルズ株式会社)入社。2008年執行役員、2016年取締役、2021年取締役常務執行役員就任。

インタビュアー

株式会社 Loco Partners 代表取締役副社長 塩川 一樹

株式会社 Loco Partners 代表取締役副社長

塩川 一樹

立命館大学経済学部卒。株式会社ジェイティービーを経て株式会社リクルートへ中途入社。旅行事業部にて首都圏・伊豆・信州エリア責任者を歴任。2012年7月より株式会社Loco Partners取締役に就任。2020年4月より現職。

目次

第1章:独自性と主体性を持ち、流されない

塩川:いくつものホテルを運営されている中で、コロナ禍による様々なご苦労があったのでないでしょうか。

新垣:フィクションの世界だと思っていた事が現実に起きたように思いました。これまでも局地的な経済危機や自然災害はありましたが、世界的に同時期に起こり、さらに生命にも関わるというのは、天地がひっくり返ったような気持ちになりました。人類の存亡をかけてウイルスと闘う事になるかもしれない。少し大げさかもしれませんが、そのくらいのインパクトがありました。誰もが感染の危機に瀕しており、どう対応すればいいのか全く分からず、いろいろな情報に翻弄されていたと思います。観光業はもちろん大きな影響を受けましたが、これはみな同じだと思います。まずは身近なところでスタッフやゲストを感染から守るのが第一優先とする中で、衣食住ではない観光の存在意義についても考えるきっかけになりました。さらには観光業にとどまらず、これからの人間の生き方や広くビジネスの在り方などを考える大きな転機になったと考えています。

塩川:これまでの在り方を見つめ直す機会になったのですね。コロナ禍による世の中の流れについてはどのようにお考えでしょうか。

ザ・テラスホテルズ

新垣:コロナ禍は世の中に「変化」をもたらしたと思います。人間の脆弱性を思い知らされたこと、そして多くの人が家族のあり方や仕事のあり方を見つめ直す中で、価値観の多様性が表面化しました。またSDGsなどの世界的取り組みの中で、発展することが良いことだという考え方から、未来へつなげていくための様々な課題を見直すことにもなりました。

塩川:観光においても、消費されるだけの観光から、観光による意義を意識するようになってきていると感じます。このような様々な変化をどのように乗り越えようとされたのでしょうか。

ザ・テラスホテルズ

新垣:端的に言えば、「独自性と主体性を持ち、流されない。迷わない。しっかり腹を括る。」です。コロナ禍になる前から徐々に起き始めていた社会の変化や、価値観の多様性の表面化が進んだことで、これまでと同じ取り組みだけではダメだと痛感しています。しかしそれは私たちのこれまで謳ってきた価値を変化させるのでありません。その逆で、原点に戻り自分たちの独自性をより深堀して、他社にはないものに仕上げ、主体的に市場へ発信する事に尽きると思います。私たちは自然の豊かさをいかに壊さずに皆さまにお伝えするかを考えています。「テラス」という名前のように常に外気を感じ、外と中が一体化する空間づくりをしています。暑さや寒さ、風、緑の香り、人との関わりを五感で感じていただきたいのです。

塩川:私もオンライン化が進む中で、五感で感じることの大切さを再認識しています。

新垣:ホテル間の競争は激しく、コモディティ化しがちです。そうさせない為、ザ・テラスホテルズでも5つのホテルのそれぞれの個性をより明確化して独自性を打ち出していく事が大切だと思います。最初のザ・ブセナテラスをオープンしてから25年間、新規のホテルや外資系のホテルが増えました。もちろんお客さまは新しいホテルに興味を持たれると思いますが、最終的にはまた帰ってきたくなるような、ホッとできる場所にしたいと思っています。

塩川:私も今回5年ぶりに新垣さんと再会し「おかえりなさい」と言っていただき、気持ちがほころびました。

新垣:私こそ、またお目にかかれて本当にうれしく思いました。先が読めない時代だからこそ、あれこれ迷わずしっかり信念を持ち、これまで通り変わらない温かな思いでお客さまをお迎えしたいと思っています。

第2章:帰る場所としてあるホテル

塩川:最初のホテル「ザ・ブセナテラス」をオープンしてから25年、思い出に残るエピソードはありますか。

新垣:20年以上毎年、2人のお子さまを含めて、家族でお越しくださっているお客さまがいらっしゃいます。お子さま方は昔から「結婚したらここでパーティーをやる」と約束してくれていたので、2019年におふたりともご結婚されたタイミングで、2日間に渡ってご親族でパーティーをしてくださいました。驚いたのはパーティーの中で、ご兄弟お二人とも私に対してお手紙を読んでくれたこと。とても嬉しかったですし、感動しました。お客さまにとってもう1人のお母さんのような存在になれていたのかもしれません。

ザ・テラスホテルズ

塩川:ホテルにいらっしゃるということは、お客さまが思い出をずっと保管してくださっているということですね。沖縄にも新しいホテルがたくさんできている中で、20年地に足つけてやっていることが、お客さまの思い出が詰まっているという面で一つの強みになっているのだと感じます。

新垣:ありがとうございます。そのご兄弟も今度のお正月に2年ぶりに赤ちゃんを連れてご宿泊されます。そういう方々が何組もいらっしゃるんです。ホテルが帰る場所になっていると感じられたことが大変ありがたいです。

塩川:それだけお客さまに合ったコミュニケーションやスタッフの個性を生かした接客を心がけているのでしょうか。

新垣:私たちにとっては人・自然・地域が大事です。人と人をつなぐ、人と自然をつなぐ、人と地域をつなぐことを考えています。もちろんお客さまの中には踏み込まれたくない方もいらっしゃいますが、リピートしてくださるお客さまはホテルを気に入ってくださっているということ。2回目、3回目にいらしたお客さまには過ごし方の提案をするなど、少しずつ距離を詰めていくようにしています。お客さまがホテルを選ぶ際に、価格などではなく、ここでしか体験できないものを提供できるよう、原点に立ち返り、それぞれのホテルの魅力を問い続け、磨き上げるようにしています。

第3章:人との縁がつないだコルシカ島との食の交流

塩川:これまで取り組んできた中で、印象的な出来事はありますか。

新垣:2008年の「日仏交流150周年」記念イベントをきっかけに、フランスのコルシカ島にある5つ星ホテルのグランドホテル・ドゥ・カラロッサと交流を継続しています。具体的な内容としては、毎年10月頃に1ヶ月かけて当社のシェフのフランス研修を実施しています。3週間カラロッサに滞在し、技術交流やワイナリーの見学、フランス人のバカンスの過ごし方などを体感します。研修最後の1週間は、パリ市内の話題のレストランめぐりをして、楽しみながらゲスト目線で「食」を見つめます。一方、コルシカのシェフ達は毎年1月から2月にかけて沖縄にいらして和食や鉄板焼きなどについて学んだり、実習を重ねてそこからヒントを得たり、インスパイヤされるものを実際に自分たちの料理にとり入れたりされています。それぞれ訪問先で賞味会なども開催して、シェフだけでなく、ホテル全体のイベントとして交流の輪を広げています。

塩川:お互いの食文化を学び合っているのですね。

新垣:本当にこれは生きた学びで、スタッフの成長に繋がっています。2020年2月が対面交流の最後になっていますが、昨年はその際に新たにコルシカ島の5つ星ホテル、カサ デル マーレのミシュラン2スターのシェフも交流に加わりました。現在はコロナ禍で入国規制も厳しく対面交流というのは厳しい状況ですが、このような中でも途絶えることなく、より頻繁に情報交換を行い、つながりを良好に維持しています。そしてこの関係を12年も維持してこられたのは、グランドホテル・ドゥ・カラロッサのGM、パトリシア・ビアンカレッリ氏とコーディネーターのロール・ドゥクリピー氏のおかげです。

塩川:人とのご縁を大事にされているのを感じます。

新垣:旅行は異なる土地に来て、異なる環境を体験すること。その中でも食で感じるその土地の味は、旅行の大事な要素になります。さらに自分たちの良さを磨いていきたいと思います。

ザ・テラスホテルズ ザ・テラスホテルズ

第4章:自然のパワーを借り、お客さまを癒す

塩川:最近SDGsの考え方が世の中に浸透してきていますが、ザ・テラスホテルズでは以前からそのような取り組みをされてきたようですね。

新垣:私たちは、リゾートを作るときに自然を大事にし、できる限りありのままの姿を生かすことを意識しています。持続可能な発展のためにビーチクリーンを行ったり、雨水活用を取り入れたり、地産地消など地域に溶け込んで地域の人たちと連携するようにしています。発展という意味が商業的になりすぎないよう、持続可能性という観点を持って取り組んできました。今思うと以前からSDGsに当てはまるようなことを意識せずやってきていましたね。

塩川:ホテルのコンセプトにも自然との共生がありますが、自然へのリスペクトをお客さまにも伝えているのでしょうか。

新垣:コロナ禍によりお客さまの中には精神的に元気がなく、気分転換にホテルにお越しになる方もいらっしゃいます。そういったお客さまから、「夜、星を見ながら波の音を聞いていたら、自分の悩みがちっぽけに感じられた。」というお言葉をいただきました。自然の力は人の幾千の言葉よりも大きな力があると思います。自然の懐に抱かれて自分も自然の一部だと感じられると、心が解けていくのでしょう。スタッフにいつも伝えていることは、「リゾートは自然だ」ということ。私たちはお客さまを癒すために自然のパワーを借りていて、そこに美味しいお料理と心遣いでお手伝いするのが仕事だと思っています。

塩川:すごく腑に落ちますね。沖縄観光の未来についてはどのようにお考えでしょうか。

ザ・テラスホテルズ

新垣:今後起こりうる様々な危機の中でも生き残れるように、そしてこれからも様々な価値観の変化があるということを念頭に置きながら、自分たちの独自性をより高め、価値を信じ、それをさらに磨いていくことが大事ではないでしょうか。オンライン化が進みネット上でできることはたくさんありますが、自然を五感で感じることはできません。どこにでもある沖縄ではなく、何が売りなのか、沖縄に来たら何があるのかというのを沖縄全体で考える必要があると思います。一つのキーワードはやはり「自然」です。自然を生かしたものを来訪者へ提供していきたいです。さらに、ビーチリゾート地として時間を消費するだけでなく、この資源を生かして、いらした多くの方に自然との共生のメッセージを伝えられる努力を継続したいです。「楽しかった、美味しかった」だけの経験ではなく、体験することでいずれ何かが未来へ繋がっていくヒントになるようなものを提案し、子供達にとっても気づきの場でありたいと思います。

塩川:お客さまに寄り添うこと、また自然に寄り添うことを教育にもつなげていかれているのだと受け止めました。貴重なお時間どうもありがとうございました。

ザ・テラスホテルズ

写真:仲松 明香 / 文:大貫 侑香

ザ・テラスホテルズ 取締役常務執行役員 新垣 瞳

ザ・テラスホテルズ 取締役常務執行役員

新垣 瞳

沖縄県出身。1973年日本IBM入社。1982年ハンドバッグデザイナーへ転身。1989年ADRI入社。オーストラリアでのリゾート開発に携わる。1997年名護国際観光株式会社(現・ザ・テラスホテルズ株式会社)入社。2008年執行役員、2016年取締役、2021年取締役常務執行役員就任。

ザ・ブセナテラス

ザ・ブセナテラス

沖縄県 > 名護

エメラルドグリーンの海を贅沢に一望するリゾートホテル。開放感に満ちたメインダイニングでは、和食、中華、イタリアンなど、多彩なお料理をお楽しみいただけます。


ザ・テラスクラブ アット ブセナ

ザ・テラスクラブ アット ブセナ

沖縄県 > 名護

“健やかな”ライフスタイルを提案するウェルネスリゾートです。日本唯一の屋外型タラソプールで心と体を解き放ついつもより特別な休日をお過ごしください。


ジ・アッタテラス クラブタワーズ

ジ・アッタテラス クラブタワーズ

沖縄県 > 西海岸(読谷・恩納)

西海岸を見晴らす丘に優美に佇むリゾート。広大なガーデンには自家農園や養蜂エリアもあるオーべジュル的大人のリゾートが広がります。


ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ

ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ

沖縄県 > 西海岸(読谷・恩納)

6つのタイプのヴィラは、全室プール付きの優雅なプライベートスペース。大切な方とともに心からゆったりとお過ごしいただけます。


ザ・ナハテラス

ザ・ナハテラス

沖縄県 > 那覇

沖縄の観光やビジネスの中心地である那覇で、ゆったりと落ち着ける隠れ家のようなリゾートホテルです。お部屋からは、窓の外に広がる南国都市の景色を眺望できます。


MB GALLERY CHATAN by THE TERRACE HOTELS

MB GALLERY CHATAN by THE TERRACE HOTELS

沖縄県 > 北谷・嘉手納

ザ・テラスホテルズとムーンホテルズアンドリゾーツが手掛けるライフスタイルホテル。西海岸を見渡すルーフトッププールからの眺めも圧巻です。


ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート(旧ホテルムーンビーチ)

ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート(旧ホテルムーンビーチ)

沖縄県 > 西海岸(読谷・恩納)

沖縄屈指の人気エリア恩納村に位置するリゾートホテル。パノラマビューのオールデイダイニングでお食事をお楽しみいただけます。


ムーンオーシャン宜野湾 ホテル&レジデンス

ムーンオーシャン宜野湾 ホテル&レジデンス

沖縄県 > 宜野湾

全室にキッチンが完備されたコンドミニアムスタイル。お気軽に南国の旅を楽しみたい方はもちろん、長期滞在にもぴったりのリゾートホテルです。

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