リゾートホテルから旅館まで、伊勢志摩の老舗ホテルを運営する伊勢志摩リゾートマネジメント。長年ホテル業界に関わってきた惣明さまに、これまでの歩みと、ホテルと地域のつながりについて伺いました。
ゲスト
伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社 総支配人
惣明 福徳(そうみょう ふくのり)
1960年、広島県生まれ。1982年、株式会社広島全日空ホテルに入社。料飲、企画、人事など多部門を経験後、2011年ANAクラウンプラザホテル金沢副総支配人。2017年伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社に入社。販売部長、統括支配人を経て2019年より現職。
インタビュアー
株式会社 Loco Partners 営業部 部長
新村 崇
大学卒業後、組織人事コンサルティング会社に入社。様々なクライアント企業の人事・組織開発プロジェクトに従事。2013年に株式会社Loco Partnersに入社し、Reluxのサービス立ち上げに参画。日本全国の宿泊施設様への営業活動等に従事し現職に至る。
第1章:シティホテルからリゾートホテルの道へ
新村:惣明さまがホテル業界に入られたきっかけや、これまでの歩みを教えていただけますか。
惣明:1982年に大学を卒業にあたり、就職活動をしていたところ、全日空系列ホテルの立ち上げの求人を見つけました。ホテルはそれまであまり利用したことはなかったのですが、新しい会社なので色々なことができるのではないかと思ったこと、またアルバイトで接客をやっており人付き合いは嫌いではなかったので、就職を決めました。当時全日空は路線があるところ全てにホテルを作ろうとしており、広島は全国で5番目のホテルでした。
新村:全日空ブランドのホテルの立ち上げということで、これから可能性が広がっていく新しい世界だったのですね。ホテルに入社してどんなことを感じましたか。
惣明:ホテルというものがよく分からず入ったのですが、自分の肌に合っている感じがしました。ホテルには衣食住があります。お客さまも様々な方がいらっしゃるので、社会の縮図のようにも感じますね。
新村:そこからどのような経緯で伊勢志摩リゾートに関わるようになったのでしょうか。
惣明:広島をベースとしてシティホテルで30数年の経験を積みながら、50代半ばに差し掛かり、次のステップを考えていました。色々な方に相談する中で、全日空時代の上司であり、当社の前総支配人、天野さんにも相談をしました。すると、ありがたいことにちょうど2017年に鳥羽国際ホテルと合歓の郷が合併するということで、忙しくなるので手伝いにこないかと誘っていただきました。これまでシティホテルの経験しかなく、リゾートホテルのことは全然分からなかったのですが、リゾートホテルにも興味があり、勉強してみようと思い携わることを決めました。
新村:天野さまに相談されたことが人生のターニングポイントになったのですね。リゾートホテルとシティホテルでの違いを感じられることもあったのではないでしょうか。
惣明:まずは、環境の違いが大きいですね。リゾートホテルは自然の中にあります。また、お客さまの滞在目的も全く違います。シティホテルは宿泊がメインで、付随してレストランなどがありますが、リゾートホテルでは一泊二食付きのプランを提供します。売り方の違いを感じました。加えて、リゾートホテルは予約から宿泊までのリードタイムが長いので先々を見据えて考えることが多いですね。
第2章:子どもから大人まで、3館それぞれの楽しみ方
新村:伊勢志摩リゾートマネジメントさまで運営されている3館、鳥羽国際ホテル・鳥羽国際ホテル潮路亭(以下潮路亭)・NEMU RESORT HOTEL NEMU(以下NEMU RESORT)それぞれのコンセプトを教えてください。
惣明:伊勢志摩リゾートマネジメントには4つの業態があります。鳥羽にあるホテルタイプの鳥羽国際ホテル、旅館タイプの潮路亭、合歓にあるNEMU RESORT、そして付随するゴルフクラブです。鳥羽国際ホテルは1964年にオープンし、今年で57年になります。伊勢志摩地域の迎賓館としての立ち位置で歴史を紡いできたリゾートホテルです。鳥羽を一望する高台に立っており、自然の美しい景色とお料理が自慢のホテルです。潮路亭は旅館タイプで、温泉とお料理が好評です。また、館内を浴衣やお部屋着で過ごしていただけます。NEMU RESORTは東京ドーム61個分という広大な面積を有しています。マリンスポーツやゴルフ、お子さまも楽しめる体験型アクテビティなどがあり、国内では珍しい選択肢の広い自然体験ができる総合リゾートホテルです。
新村:それぞれ特色がありますね。子どもから大人まで、楽しみ方が無限にあるような場所だと思います。お食事にもそれぞれ特徴があるのでしょうか。
惣明:鳥羽国際ホテルには洋食と和食があります。洋食は国内外の賓客をおもてなししたリゾートフレンチ、和食は伊勢志摩の素材の味を引き立てた料理が特徴です。潮路亭は伊勢神宮の「常若(とこわか)」という常に新しくしていく、変化していくという考え方を取り入れ、料理は和モダン料理を意識しています。また、伊勢神宮外宮では、毎日朝夕に「御饌(みけ)」と呼ばれるお食事を天照大御神にお供えされていますが、その料理のエッセンスも取り入れながら、少しづつ変化をつけています。
新村:伊勢神宮のコンセプトも取り入れていらっしゃるのですね。NEMU RESORTのお料理にはどのような特徴があるのでしょうか。
惣明:和食については、伊勢志摩の素材を生かした料理で懐石風にアレンジしており、器や流れを大切にして提供しています。洋食については、グランピングスタイルの料理提供を3年前から行っています。グランビングですのでお客さまが作る体験をしていただくという点で食でもリゾートを楽しんでいただいており大変ご好評いただいています。ただ素材を生かすというところは和食も洋食も変わりません。
新村:それぞれ違いがありますね。食材についてもこだわりがあるのでしょうか。
惣明:鳥羽から船で20分程のところにある答志島という島からお魚を仕入れています。答志島は小さい島ですが、三重県の中でも漁獲高が大きく、立地的に遠洋から内海のお魚まで種類豊富に獲れます。また、海の流れが早くお魚がよく運動するため、身もしまっており美味しいです。当社は漁船を持っているので、答志島の市場に買い付けに行っています。また、ホテルでは珍しく鑑札(市場に入り競り落とす権利)を持っており、競り落としたお魚を生け簀に入れて持ち帰り、新鮮なお魚を提供しています。答志島とは今までずっと良い関係性を築きながらお世話になっています。
※写真提供:伊勢志摩リゾートマネジメント様
第3章:未来のために社員全員で考えるSDGs
新村:答志島含め、地域の方々との連携で大切にされていることはありますでしょうか。
惣明:この地で仕事をさせていただいている以上、地元の方の協力や理解が不可欠になります。良い食材を仕入れるためには良い関係性を築くことが重要です。食材以外でも地元の方や自治体の方々などと連携し、情報をいただきながらホテルを運営しています。また、地域の環境などの課題も共有し、どのように未来へ繋いでいくか、という観点からSDGsの活動も2020年から取り組み始めました。SDGsのためにできることを、伊勢志摩リゾートマネジメントの社員全員で考えて提案するコンテストも毎年開催しています。綺麗に見える海も、海温が上がり海藻ができなくなっているという問題があります。そうなると伊勢志摩の名産である伊勢海老やアワビが獲れなくなってしまいます。海藻を保つための活動として、昨年から鳥羽市の水産研究所と連携しながら海藻を育てる取り組みも行なっています。
新村:その取り組みもコンテストで提案されたものなのですか。
惣明:そうです。コンテスト内容に基づき活動していく中で地元のNPOの方からの提案もあり、SDGs活動が地域の方との連携のきっかけにもなっています。他にもNEMU RESORTの海岸に打ち上げられるプラスチックゴミをアートに活用するなどもしました。
新村:SDGsについて社員全員で考え、行動にまで移されているのが素晴らしいですね。
※写真提供:伊勢志摩リゾートマネジメント様
惣明:SDGsは難しいと思われがちかもしれませんが、意外と身近なところから実践できます。例えば、食材のロスであれば、鳥羽市のゴミ再生施設に生ゴミを持ち込むと肥料にしていただけます。また当社の看板商品であるチーズケーキで焼きムラができたり形が崩れたりで、商品として売れないものを今までは捨ててしまっていました。これもどうにか活用できないかということで、社員のアイディアで、中のチーズの部分をくり抜いてパンやケーキにしてそれを商品化したところ大好評で、人気商品になりました。
新村:社員の皆さんでアイディアを出し合っているのですね。自分ごと化して考えるのはなかなか難しいことだと思います。
惣明:個人で考えると難しいので、チームで考えるようにしています。またこの取り組みの前提になっているのは、2020年から行なっている提案制度です。個人が従業員満足度・顧客満足度などに関わる提案を紙に書いて出してもらう制度で、全て直接私に来るようになっています。SDGs関連以外のものもあります。このような制度があったことで、自分から提案するという環境が整っていたというのもあると思います。
新村:地域と共に未来を見据えて、一人一人が行動を起こす組織づくりをされているのだと感じます。
惣明:この取り組みを継続していきたいですね。
第4章:地域との連携で生まれる新しいアイディア
新村:最後に、今後目指す姿や展望を教えてください。
惣明:私たちの施設、特に鳥羽国際ホテルは老舗の位置付けになります。老舗は、今まで来ていただいた顧客も時が経つと共に、来れなくなってしまうことが大きな課題の一つです。そうならないためにもお客さまの層を広げること、また深掘りしていき、お客さまに選んでいただくことが重要です。自然は与えていただいているので、この土地の食や文化をいかにお客さまに体験いただくか、様々なプレゼンテーションをしていきたいです。またコロナ禍で特に地域との連携の大切さを感じましたので地域にも貢献し、一緒に情報発信することを続けていきたいと思います。
新村:コロナ禍で特に地域との連携の大切さを感じられたというのは、なぜでしょうか。
惣明:コロナ禍でお客さまが来なくなり、鳥羽市や志摩市、民間企業の方々とお客さまに来ていただくためにはどうすれば良いか、話し合いをし、連携することが多くなりました。その取り組みの一つはワーケーションです。ワーケーションはホテルだけでは完結しません。行政やNPOなど地域の方と連携し、ホテルに来ていただいたお客さまに、仕事をするスペースや体験するプログラムなどをご案内するようになりました。他にも、県より、需要がなくなった鯛やお茶が大量に余ってしまい、なんとかしてほしいと依頼がありました。そこでお取り寄せギフトとして鯛のあら炊きのセットや鯛茶漬けなどを作って販売したり、レストランでお茶の飲み比べセットなどの新商品を作ったりもしました。このようにコロナ禍によって、地域との連携がより強くなり、新たな取り組みが実現できました。
新村:コロナ禍で県や地域の問題を解決するために行政と企業が手を取り合う中で、新しいアイディアが生まれるきっかけにもなったのですね。地域との連携の中で今後の新たな可能性も感じました。本日は貴重なお話ありがとうございました。
写真:町田 宗俊/ 文:大貫 侑香
伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社 総支配人
惣明 福徳(そうみょう ふくのり)
1960年、広島県生まれ。1982年、株式会社広島全日空ホテルに入社。料飲、企画、人事など多部門を経験後、2011年ANAクラウンプラザホテル金沢副総支配人。2017年伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社に入社。販売部長、統括支配人を経て2019年より現職。
三重県 > 志摩(浜島・阿児・磯部)
伊勢志摩国立公園の中に佇むリゾートホテル。自然に囲まれたオープンテントでグランピング ディナーもお愉しみいただけます。